日本における自動車盗難:キーレス盗難の脅威とその対策

日本における自動車盗難:キーレス盗難の脅威とその対策

目次

日本はこれまで、自動車盗難リスクが比較的低い国とされてきました。しかし近年、その状況に変化が見られています。高価格車両を標的とした組織的な盗難が増加し、従来とは異なる新たな脅威が顕在化しています。

特に注目されているのが、スマートキーの電波を悪用する「リレーアタック」や、車両ネットワークに侵入する「CANインベーダー」といったキーレス車両を狙った攻撃です。これらは車両の無線通信や車載ソフトウェアの脆弱性を突くものであり、従来の盗難対策だけでは十分に防ぐことが難しくなっています。

その結果、自動車業界では、盗難後の追跡に加え、攻撃をリアルタイムで検知・防止する車両セキュリティの重要性が高まっています。

本記事では、日本国内における自動車盗難の最新動向、巧妙化する手口、盗難車両の流通実態、そして求められる新たな対策について解説します。

減少から増加へ:日本で変化する自動車盗難の実態

欧州や北米では、車両盗難による損失が年間数千億円規模にのぼるのに対し、日本では依然として比較的低い水準にとどまっています。

警察庁の統計によると、日本の車両盗難は2003年に約64,000件でピークを迎えました。その後20年以上にわたり減少を続け、2021年には5,182件まで低下しました。しかし、この傾向は直近3年間で反転しています。2023年は5,762件、2024年には6,080件、そして2025年には全国で6,386件の自動車盗難が認知されています。

さらに詳細な分析からは、車両盗難による経済的影響も拡大していることが明らかになっています。日本損害保険協会によれば、車両本体盗難の支払い件数は2025年は2,746件と前年比9.8%増加しています。支払保険金は、2025年には1件あたりの平均金額は297万5千円となり、年間の支払総額は約82億円に達しました。

高価格車両を狙う盗難の高度化

統計データから、車両盗難は決して無差別に行われている犯罪ではないことが分かります。特定の車種や部品に対するグローバルな需要を背景に、窃盗グループは明確なターゲット設定に基づき計画的かつ高度化した手口で組織的な犯行を行っています。

この傾向は年々強まっており、特に2025年では盗難被害1位の車種は盗難保険支払い件数のうち30%をしめており、2位以下の車種との差が大きくなっています。これらの車両は海外市場でも人気が高く、中古車や部品として高い価値を持っています。特に人気のある大型SUVは、中東やアフリカ、東南アジアなどの地域で需要が高く、盗難車が海外市場で転売されるケースも報告されています。

キーレス時代に巧妙化する車両盗難手口

自動車盗難の歴史は、自動車の歴史とほぼ同じ長さであり、車両側の技術の進化と窃盗犯の手口の巧妙化の攻防が繰り返されてきました。現代の車両はソフトウェアとコネクティビティに大きく依存しており、そこに潜む脆弱性に対してサイバー技術を悪用した新たな攻撃ベクトルが生まれています。現在主流となっているキーレス車両盗難では、車両の電子システムやソフトウェアの脆弱性が悪用され、わずか1分未満で解錠から走行まで可能となります。従来の力ずくの物理的な破壊による盗難とは異なり、攻撃対象は車内ネットワークへとシフトしています。

警察庁のデータによると、車両盗難の75%(4台に3台)はエンジンキーを抜いている、あるいはキーフォブが近くにない状態で発生しています。また、発生場所の内訳を見ると、42%が個人宅、27%が駐車場で発生しています。さらに、盗難の60%が22時から翌9時の間に発生しています。このように、キーレス車両盗難は、キーの置き忘れといった偶発的な状況を狙うものではありません。コネクテッドカーやソフトウェア・デファインド・ビークルで採用されている技術に潜む脆弱性を悪用して、計画的かつ高度に組織化された犯罪へと進化しているのです。

キーレス車両盗難とは、車両のワイヤレスキーシステムの脆弱性を悪用し、キーを物理的に所持していなくても解錠・始動を可能にする手法です。こうした電子的な盗難手口は年々巧妙化しており、スマートキーの電波を悪用する攻撃から、車両ネットワークを直接狙う攻撃へと広がっています。代表的なものが「リレーアタック」と「CANインベーダー」です。

リレーアタックとは

リレーアタックは、スマートキーの無線通信を悪用する手法で、通常2人1組で実行されます。それぞれが小型の通信デバイスを持ち、1人はキーの近く(自宅やガレージ付近)、もう1人は車両の近くに待機します。キー付近でデバイスを作動させてスマートキーの信号を取得し、それを車両近くのデバイスへ中継します。車両はキーが近くにあると誤認し、ドアを解錠します。これにより、犯人はキーを実際に所持することなくエンジンを始動し、そのまま走り去ることが可能になります。この攻撃では鍵を直接盗む必要がなく、鍵に物理的にアクセスしなくても、例えば鍵が自宅の玄関付近にあるだけでも盗難が成立する場合があります。

CANインベーダーとは

CANインベーダーはリレーアタックとは異なり、車両内部ネットワークを直接攻撃する盗難手口です。CAN(Controller Area Network)は車両の電子制御ユニット(ECU)同士が通信するネットワークで、ドアロックやエンジン制御など多くの機能がこの通信によって制御されています。攻撃者はCANインベーダーという小型デバイスを使用し、車両の配線にアクセスしてCANネットワークに接続し、正規の通信を模倣した不正メッセージを送信します。その結果、鍵を使わずにドアの解錠やエンジン始動が可能になります。

こうした盗難手法により、従来の防御機構(イモビライザーなど)を回避し、エンジンを始動させることが可能になります。報道によると、日本では高級車の盗難にCANインベーダーが使用されるケースが増加しており、海外を含む組織的な窃盗グループとの関与も指摘されています。この攻撃はスマートキーの電波を必要としないため、リレーアタックよりも防御が難しい場合があります。

なぜ盗難車は戻らないのか:解体・流通の実態

車両には車両識別番号(VIN)があるため、そのまま転売すると盗難車であることが発覚する可能性があります。しかし車両を部品単位に分解すると追跡が難しくなります。そこで、盗難された車両の多くはそのまま販売されるのではなく、日本国内の「ヤード」と呼ばれる自動車解体場で解体され部品として流通されます。特にエンジンやカーナビ等の電子部品などは中古パーツとして海外市場で高い需要があります。現在では、下見、実行、解体、転売といった専門的な役割分担がなされるケースもあり、自動車盗難が単なる個人犯罪ではなく、国際的な転売ネットワークを伴う組織犯罪となっていることを示しています。日本の税関もこうした不正輸出を防ぐため、大型X線検査装置などを活用した取締りを強化しています。しかし、すべてを水際で防ぐことは容易ではありません。

こうした状況は日本の盗難車両の回収率の低さにも表れています。例えば米国では、盗難届の件数も多いですが、盗難車両の85%以上が回収されており、そのうち34%は当日中に発見されています。つまり、乗り捨て目的の犯罪が多いことがうかがわれます。一方、日本における回収率は約24%にとどまっており、その差は顕著です。

こうした状況を踏まえると、自動車盗難対策は盗難後の追跡や流通段階での取締りだけでは十分とは言えません。車両そのものが盗まれないようにする仕組み、つまり車両内部で攻撃を検知し防ぐセキュリティが求められています。

リアルタイム防御が実現する次世代の盗難対策

従来の盗難防止システムは、物理的な侵入防止やエンジンのイモビライザー、アラームの作動といった仕組みによって、盗難の抑止や防止を図ってきました。これらは機械的な手口には有効である一方で、コネクティビティや車内ネットワーク、ソフトウェアの脆弱性を悪用するキーレス盗難には対応できていません。

その結果、既存の防御策と現在の脅威との間に大きなギャップが生じています。キーレス盗難を防ぐためには、新たなセキュリティアプローチが求められます。単にアクセスを防ぐだけでは不十分であり、現在の盗難対策には、攻撃をリアルタイムで検知・阻止する能力が必要です。

サイバーセキュリティの考え方に基づくこのプロアクティブなアプローチには、エンジン停止中も含めた車両ネットワークの継続的な監視、不審な通信パターンの検知、不正コマンドの防止といった機能が含まれるべきです。

PlaxidityXでは、このような脅威に対応するための技術として、キーレス車両盗難防止ソリューションvDome や車両内盗難検知エージェント TDPX を提供しています。これらの技術は車両が駐車状態でも監視を続け、CANインベーダーやリレーアタックのような攻撃を検知できるよう設計されています。車載エージェントとクラウドベースの継続的な脅威インテリジェンスを組み合わせることで、サイバー攻撃による車両盗難の脅威をエンジン始動前の段階で検知し、盗難の発生を未然に阻止します。

AIを活用したこの盗難防止ソリューションは、日本においてキーレス盗難リスクが高まる中、特に高リスク車種の保護に最適です。特許技術と自動車サイバーセキュリティの専門知見に基づき、vDomeはサイバー盗難の試みをリアルタイムで検知・防止すると同時に、誤検知をほぼゼロに抑えた高い精度を実現します。

このソリューションを活用することで自動車メーカーは新たなサービス開発を行うことができ、例えばサブスクリプション型のプレミアム盗難防止サービスとして消費者に提供することで、ビジネスモデルの強化も可能になります。

自動車盗難対策は次の段階へ

自動車盗難は、ハッキングなどによる電子的な犯罪へと変化しています。

日本では盗難件数が徐々に増加しつつあり、高級車を狙った組織的盗難や車載ソフトウェアの脆弱性を狙った手口の高度化が指摘されています。車両セキュリティの考え方は「盗まれてから対応する」から「盗まれる前に防ぐ」へと変わりつつあります。自動車メーカーやフリート事業者にとって、車両セキュリティは顧客の資産とブランド信頼を守る重要な要素となっています。

本ブログでご紹介した自動車盗難対策ソリューションや次世代の車載セキュリティについて詳しく知りたい方は、ぜひお気軽にPlaxidityXまでお問い合わせください。

執筆:2026年04月13日