キーレス車両盗難を防ぐ ― プロアクティブな車両保護が求められる理由
近年、多くの市場で自動車盗難件数が過去最高水準に達しています。その主な要因となっているのが、キーレス車両を狙った盗難手法の急増です。CANインジェクションやキー・フォブ(スマートキー)の複製といった高度なサイバー手口により、従来の盗難防止対策では対応しきれない致命的な弱点が明らかになっています。こうしたキーレス車両盗難を防ぐには、リアルタイムでの検知・防御を前提とした盗難を未然に防ぐ車両保護戦略と、進化し続ける脅威への継続的な対応が不可欠です。PlaxidityX vDomeは、現代のキーレス車両盗難に特化して設計された AI搭載の盗難防止ソリューションです。車両ネットワーク内に統合され、コマンドをリアルタイムで監視し、不正な操作を即座に検知し、未然に盗難を防止するアクションを自動で実行します。
この10年で、自動車盗難の手口は大きく様変わりしました。かつて主流だったのは、窓ガラスを割って、イグニッションを直結するといった比較的単純な物理的手法です。しかし現在では、イモビライザーや電子ロック、アラームシステムを数秒で回避する高度なサイバー攻撃が主流となっています。
キーレス車両を狙った盗難は、多くの市場ですでに危機的なレベルに達しています。その影響は、車両オーナーにとどまらず、自動車メーカー、フリート事業者、さらには保険会社にまで及び、自動車業界全体に深刻な課題を突きつけています。
キーレス車両盗難とは何か?
キーレスエントリー/キーレススタート技術は、車両の利便性とユーザー体験を大きく向上させてきました。物理的な鍵を差し込むことなく、ドアの解錠やエンジン始動が可能となり、今日の車両においては標準的な機能となっています。一方で、この利便性により、新たな脆弱性が発生しており、技術に精通した窃盗犯に悪用されています。
近年のキーレス車両盗難は、力ずくで侵入する従来型の手口ではなく、ノートPCや専用のコーディングツールなどの機器が使用され、わずか1分以内に車両を解錠・始動できるケースも珍しくありません。
現在主流となっているキーレス車両盗難の代表的手法
- CANインジェクション
CANインジェクションは、車両内ECU間の通信を担うCAN(Controller Area Network)バスプロトコルの脆弱性を直接悪用する手法です。攻撃者は、インターネットやダークウェブなどで入手可能な「CANインベーダー」と呼ばれるデバイスを使用します。このデバイスは、ヘッドライトの配線や診断ポートなど、一見目立たない箇所を経由して車両ネットワークに物理的に接続されます。その後、正規のコマンドを装った悪意あるCANメッセージを車両内部ネットワークに注入することで、イモビライザーの無効化、ドアロックの解除、エンジン始動などの操作を可能にします。結果として、車両は1分足らずで持ち去られてしまいます。 - キー・フォブ(スマートキー)の複製
この手法では、本来は自動車メーカーや正規サービスで使用される鍵のプログラミング用ツールが悪用されます。攻撃者は、専用タブレットなどのプログラミング用機器をダッシュボード内のポートやヘッドライト経由で車両ネットワークに接続し、車両と同期させます。同期後は、コマンド操作によってキー情報を書き換え、車両の制御権を奪取することが可能になります。こうした高度な盗難を可能にするのは、Telegramなどのアンダーグラウンドのネットワークで、車両盗難やハッキングに関する情報が取引されています。窃盗犯はAutelのようなツールを使ってVINやPIN情報を取得してキー複製を行うケースもあり、盗難・不正アクセス・クローン生成を可能にする深刻なセキュリティリスクとなっています。 - リレーアタック
リレーアタックは、2台の中継デバイスを用いてスマートキーの電波を不正に中継する手法です。1台目のデバイスは、車両オーナーのスマートキーの近く(自宅内、ポケット、バッグなど)に配置し、2台目のデバイスは車両の近くに配置します。1台目がスマートキーの信号を取得し、それを2台目に中継することで、車両は「正規のキーが近くにある」と誤認します。その結果、攻撃者は正規のキーがなくてもドアを解錠し、エンジンを始動して車を持ち去ることが可能になります。
これらすべてのキーレス車両盗難手法に共通しているのは、車両に物理的な破壊痕をほとんど残さないという点です。このため、従来の方法や装置では、盗難を検知することが困難です。こうしたキーレス盗難への対策は、自動車サイバーセキュリティの専門知識を前提としたアプローチを必要としていることを示しています。
自動車業界全体を揺るがすキーレス車両盗難の影響
キーレス車両盗難の急増は、自動車エコシステム全体に広範な影響を及ぼしています。
自動車メーカーへの影響
特定モデルにおける盗難件数の増加は、ほぼ例外なく顧客満足度の低下につながります。市場や国によっては、盗難リスクが高いと認識されたモデルやブランドに対して、販売台数の減少やブランド価値の毀損が実際に発生しています。
保険会社への影響
盗難の増加は、そのまま保険金支払い(クレーム)の増加につながり、結果として保険料の引き上げや収益性の悪化を引き起こします。このため、保険会社によっては、盗難リスクの高い車種に対する引受を見直す動きが進んでいます。例えばロンドンでは、Range Roverの保険加入は極めて難しく、かつ高額であることが広く知られています。
フリート事業者への影響
保険会社がリスク低減を目的として補償条件を見直す中で、フリート事業者は自己保険を選択せざるを得なかったり、盗難による損失コストを直接負担するケースが増えています。その結果、運用コストや予算計画に大きな影響を及ぼしています。
消費者への影響
消費者にとって、車両盗難は精神的な苦痛である上に、保険料の上乗せという経済的負担を伴います。こうした背景を反映し、消費者の間では盗難対策に対する意識が急速に高まっています。Deloitteの「2025年グローバル自動車消費者調査」によると、盗難防止や追跡サービスに対して追加費用を支払う意思があると回答した割合は、米国60%、インド88%、東南アジア82%です。
自動車盗難は数十億ドル規模の深刻な問題に
これまでに紹介したキーレス車両盗難の手法は、世界各地で盗難件数の急増を引き起こし、車両オーナーに年間で数十億ドル規模の損失をもたらしています。
英国
過去10年間で、英国における自動車盗難件数は75%増加しており、2024年には、13万台以上の車両が盗難被害に遭いました。
米国
2024年には、85万台以上の車両が盗難されています。
カナダ
盗難関連の保険請求コストは、2018年に4億3,600万ドルでしたが、2023年には15億5,000万ドルと、わずか5年間で254%増加しています(カナダ保険協会:Insurance Bureau of Canada)。
英国の報道によると、2023年4月〜2024年3月の間に発生した自動車盗難の58%は、キーの複製など、シグナル操作を伴うキーレス車両盗難とされています。
キーレス車両盗難にどう対抗すべきか
現在、車両盗難が深刻化している市場では、盗難後の車両追跡・回収に多くのリソースが割かれています。多くの車両オーナーやフリート事業者は、保険会社の要請もあり、盗難車両追跡・回収サービスに依存しているのが実情です。しかし、問題を根本的に解決するためには、自動車メーカーが車両をそもそも盗難しにくい構造にするという新たなアプローチが求められています。
キーレス車両盗難の防止には、リアルタイムでの検知と即時防御を前提とした、脅威を未然に防ぎ、多面的な車両保護戦略が必要です。こうした次世代の自動車向けサイバーセキュリティツールは、AIをはじめとするインテリジェント技術を活用し、車のライフサイクル全体を通じて新たな脅威や将来の盗難手法に継続的に適応できなければなりません。
キーレス車両盗難をそのライフタイムを通じて防止するためのソリューションは、以下の多面的な防御策を基盤とすべきです。
- 検知
CANインジェクションによる車両ネットワークの不正操作や、キーの不正登録(キーの複製など)といったキーレス盗難の攻撃をリアルタイムで検知します。 - 防御
不正な操作を検知した瞬間に、リアルタイムで盗難防止アクションを実行します。その際に、例えばキーの再プログラミングにおいて、正規の作業と攻撃者による不正な操作を正確に区別し、不正なケースのみを確実にブロックすることが不可欠です。 - 将来への備え
新たな攻撃ベクトルや進化する脅威に対応するため、新規の機能の追加をシームレスに行えることが求められます。キーレス車両盗難対策ソリューションは、車両が公道を走り続ける限り、脅威インテリジェンスに基づくOTAアップデートを通じて進化し続ける必要があります。
なぜ自動車メーカーにとってアフターマーケット対策が重要なのか
現在、自動車メーカーはUN R155 やISO/SAE 21434といった新たな規制・標準への対応を見据え、サイバーセキュリティを車両設計の中核要件として位置づけています。その取り組みは、セキュアコーディングの徹底、車載侵入検知・防御システムの実装、さらにはVSOCによるフリート全体の可視化・監視にまで及んでいます。
一方で、盗難対策という観点では、業界は依然として後手に回っているのが実情です。自動車メーカー各社は盗難防止機能や関連サービスの追加に関心を示しているものの、これらの対策は既存車両に完全に後付けできるものではありません。仮に自動車メーカーが、今、新たな盗難防止策の導入を決断したとしても、その機能が搭載された新型車が市場に広く行き渡るまでには、数年単位の時間を要します。ここで浮かび上がるのが、すでに公道を走っている膨大な数の車両を、どう守るのか?という問題です。
特定の脆弱性が車両プラットフォーム上で発見された場合、自動車メーカーは影響を受ける車両に対して ソフトウェアアップデートを提供することが可能です。しかし現実的には、すべての車両に存在するすべての弱点を完全に修正することは不可能です。もしそれが可能であれば、キーレス車両盗難はほぼ発生していないはずでしょう。さらに、数百万台規模の車両に対してアップデートを配布・インストールするには、相当な時間がかかるため、この期間は攻撃に対して無防備になります。
vDome キーレス車両盗難防止ソリューションのご紹介
PlaxidityX vDomeは、CANインジェクションやスマートキーの複製をはじめとする、キーレス車両盗難特有のサイバー攻撃手法に対抗するために設計された、AI搭載の盗難防止ソフトウェアです。
vDomeは車両ネットワーク内で不正な挙動をリアルタイムで検知し、盗難が発生する前に即座に防止アクションを実行します。さらに、脅威インテリジェンスに基づく継続的なアップデートにより、進化を続ける新たな盗難手法や攻撃ベクトルにも対応可能です。この技術はすでに Vodafone Automotiveの盗難防止ソリューションに統合されるという実績があります。
最新のサイバー盗難手法から車両を守るために、vDomeがどのように貢献できるか、ぜひお気軽にお問い合わせください。
執筆:2026年01月12日